札幌地方裁判所 昭和40年(行ウ)11号 判決 1966年4月11日
札幌市新琴似町三八八番地
原告
安斉富士男
札幌市大通西七丁目
被告
札幌国税局長・池中弘
右指定代理人
中村盛雄
同
山本和敏
同
高田金四郎
同
草野尚
右当事者間の審査決定取消等請求事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
一、原告の申立
1 原告の昭和三八年度分所得税につき、札幌税務署長がなした昭和三九年八月一八日付昭和三八年度分所得税の更正決定処分、同年一一月二一日付昭和三八年年度分所得税の更正および過少申告加算税の賦課決定処分を各取り消す。
2 前項の各処分に関する原告の審査請求について、被告がなした昭和四〇年八月一八日付右審査請求を棄却した裁決を取り消す。
二、被告の本案前の申立
主文同旨
第二、当事者双方の主張
一、原告の請求原因
(一) 原告は、建築および不動産あつせん等を業とする商人であるが、札幌税務署長は、原告の昭和三八年度分所得税について、昭和三九年八月一八日付で、所得金額金四七六万八、一七一円、扶養控除金七万円、基礎控除金一〇万七、五〇〇円、身体障害者控除金六、〇〇〇円、課税される所得額金四五九万〇、六〇〇円、算出税額金一五一万三、七七〇円、確定納税額金一五八万二、〇二〇円、過少申告加算税金七万四、二五〇円なる旨の更正決定をし、この旨原告に通知した。
(二) 原告は、右更正決定に対し、異議申立をしたところ、札幌税務署長は、昭和三九年一一月二一日前記処分を取り消し、所得金額金三〇六万三、七四二円、扶養控除金七万円、基礎控除金一〇万七、五〇〇円、身体障害者控除金六、〇〇〇円、課税される所得額金二八八万六、二〇〇円、算出税額金八〇万二、四八〇円、確定納税額金七九万六、四八〇円、過少申告加算税金三万八、六五〇円なる旨の決定をし、原告に通知した。
(三) そこで、原告が右決定につき、昭和三九年一二月一五日、被告に対し審査請求をしたところ、被告は昭和四〇年八月一八日付をもつて、原告の右請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は同年九月一日原告に送達された。
(四) しかしながら、原告には、前記更正決定によるような所得金額は存在せず、原告の昭和三八年度所得の合計は金四四万八、二五〇円であり、これより扶養控除金九万円、基礎控除金一〇万七、五〇〇円を控除すると差引所得は金二七万〇、七〇〇円となる。そして、これによる算出税額は金二万八、五〇〇円となり、これより障害者控除をすると確定納税額は金二万二、五〇〇円となるものであつて、札幌税務署長のした更正決定にもとづく所得は存しないから、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二、被告の本案前の抗弁
原告は、訴外札幌税務署長のした本件申告所得税の更正処分に不服ありとして昭和三九年一二月一六日、被告に対し審査請求をしたが、被告は同訴外人のなした右更正処分を相当であるとし、て同四〇年八月一八日付で原告の右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書謄本は同年同月二四日原告に送達されたものである。
ところで、本件訴訟は行政事件訴訟法第一四条第四項で、裁決があつたことを知つた日から三カ月以内に提起しなければならない旨規定されているところ、本訴は右三カ月の期間を経過した後である同年一一月二六日に提起されているから不適法である。
かりに、本件訴えが適法の期間内に提起されたものとしても、請求の趣旨第一項の処分をしたのは訴外札幌税務署長であつて、被告ではないから、右請求は被告適格を誤つた不適法な訴えである。
なお、請求の趣旨第二項は、被告に対し裁決の取消しを求めているが、行政事件訴訟法第一〇条第二項の規定により、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。
第三、証拠関係
一、被告の証拠
1 乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、第三号証を提出。
2 証人高橋達哉の証言を援用。
二、原告の書証認否
乙号各証の成立をすべて認める。
理由
よつて、本件訴えの適否について判断する。
原告の本件訴えは被告に対し、原告に対する札幌税務署長がした昭和三九年八月一八日付の昭和三八年度分所得税の更正決定処分、および同年一一月二一日付の昭和三八年度分所得税の更正決定処分、および同年一一月二一日付の昭和三八年度分所得税の更正および過少申告加算税の賦課決定処分、ならびに右各処分に対する被告のした昭和四〇年八月一八日付の裁決の各取消しを求めるというものである。
そこで、先ず右前段の札幌税務署長のした各処分の取消しを求める部分の処分の取消しの訴えについて判断するに、行政処分の取消しを求める訴えは、当該処分をした行政庁を被告として提起しなければならない(行政事件訴訟法第一一条第一項)ところ、右処分が札幌税務署長のしたものであることは原告の本訴請求自体から明らかであるから、被告に対し右処分の取消しを求める部分の訴えは、被告適格を欠き、不適法な訴えといわなければならない。
つぎに、後段の被告のした裁決の取消しを求める部分の裁決取消しの訴えについて判断するに、行政庁の裁決の取消しを求める訴えは、当該裁決があつたことを知つた日から三カ月以内に提起しなければならないところ(行政事件訴訟法第一四条)、成立に争いがない乙第一、第二号証の各一、二、第三号証および証人高橋達哉の証言を総合すると、原告の昭和三八年度分所得税に関する札幌税務署長の決定に対する審査請求に対し、被告が昭和四〇年八月二三日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本が同年同月二四日原告に送達されたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば、特段の事情の認められない本件においては、右裁決書謄本が原告に送達された昭和四〇年八月二四日に、原告は右裁決があつたことを知つたものといわなければならない。ところが、原告が右裁決の取消しを求める本件訴えを昭和四〇年一一月二六日に提起したことが本件記録上明らかであるから、右訴えは三カ月の出訴期間の経過後に提起されたものであること明白であつて、不適法なものといいなければならない。
よつて、原告の本件訴えは不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井田友吉 裁判官 朝岡智幸 裁判官 天野耕一)